認知症は、自分自身や家族が当事者になっても決して不思議ではない、非常に身近な病気となっています。
超高齢化が進む日本では、認知症患者やその予備軍(MCI)の現状、予防・対策に関する正しい知識を持つことがこれまで以上に重要視されると思います。
この記事では、内閣府の公表データをもとにした将来推計をはじめ、老化による忘れ物との違い、主な認知症の種類、早期発見の鍵となる「軽度認知障害(MCI)」、そして生活習慣改善による予防法までを解説していきたいと思います。
よろしければ参考にしてみてください。
記事の要点
- 将来推計
2060年には高齢者の約35.1%(約3.5人に1人)が認知症またはMCI(軽度認知障害)になると推計されています。 - 認知症と老化の違い
老化による忘れは「体験の一部」を忘れるのに対し、認知症は「体験したことのすべて」を忘れて自覚がありません。 - 認知症の4つの種類
最も多いのは「アルツハイマー型認知症(67.6%)」で、次いで「血管性認知症(19.5%)」、「レビー小体型認知症(4.3%)」、「前頭側頭型認知症(1.0%)」と続きます。 - 早期発見・MCIの重要性
MCI段階で適切な対策を行うことで、約30%は健康な状態に戻るとされています。 - 生活習慣病との深い関係
慢性的な高血糖状態(糖尿病)は、アルツハイマー型や血管性認知症の発症リスクを高めるので、日常の食事や運動など生活習慣の改善が不可欠です。
日本における認知症・MCI患者数の現状と推計
超高齢化が急速に進む日本社会において、認知症やその前段階にある人々の割合は年々増加傾向にあります。
ここでは、公的データに基づく現在の患者数と、将来の推計について詳しく見ていきます。
令和8年高齢社会白書に見る現在の状況
内閣府が発表した「令和8年高齢社会白書」のデータによると、2025年時点での認知症高齢者は約471.6万人(有病率12.9%)、MCI(軽度認知障害)の高齢者は約564.3万人(有病率15.4%)と試算されています。
これら両者を合計すると、高齢者の28.3%に達するという大きな数値となっています。
2060年の将来推計と社会的な取り組み
さらにこのペースが推移した場合、2060年には以下のような推計数値が示されています。
- 認知症有病率:17.7%(約645.1万人)
- MCI有病率:17.4%(約632.2万人)
- 合計(認知機能障害):35.1%
この試算結果は、2060年には高齢者の約3.5人に1人が認知症またはその予備軍になることを意味しています。
認知症は個人の問題ではなく、社会全体で取り組むべき大きな課題となっていると言えます。
こうした背景から、2024年には「共生社会の実現推進のための認知症基本法」が施行されています。
この法律のもと、認知症の人が尊厳を保持しながら希望を持って暮らせる社会づくりが着実に進められています。
老化による「忘れ」と「認知症」の違い

加齢に伴う単なる「もの忘れ」と「認知症による記憶障害」は、似ているようで本質的に大きく異なります。
認知症に対する誤解や偏見を無くすには、単なる老化現象と認知症の症状の違いを正しく理解することが大切です。
老化によるもの忘れの特徴
老化による「忘れ」は、脳の加齢変化に伴って起こる自然な現象で、以下のような特徴を持っています。
- 記憶の一部を忘れる(例:朝食に食べたメニューを思い出せない)
- ヒントがあれば思い出すことができる
- 忘れ物をしたこと自体の自覚(体験の自覚)がある
認知症による忘れの特徴
一方、認知症による「忘れ」は病的な変化であり、生活全般に大きな影響を及ぼします。
- 体験したことのすべてを忘れる(例:朝食を食べたこと自体を忘れる)
- 記憶そのものが抜け落ちているため、ヒントがあっても思い出せない
- 忘れ物をしている自覚自体がない
- 知り合いの名前が出てこないだけでなく、家族の名前や自分の家、現在の時間が分からなくなる
- 認知機能の低下により、日常の生活や社会生活に支障をきたす
知っておくべき「認知症の4つの種類」

認知症と一言で言っても、その原因となる病態によって複数の種類に分類されます。
認知症には主な原因に応じて4つの主要なタイプがあります。
アルツハイマー型認知症(全体の67.6%)
- 特徴・原因
脳内に「アミロイドβ」などの異常タンパク質が蓄積し、神経細胞が破壊されることで脳全体が萎縮します。
認知症の中で最も多い割合を占めています。 - 主な症状
初期は軽度の物忘れから始まり、次第に時間や場所の感覚が失われていきます。
血管性認知症(全体の19.5%)
- 特徴・原因
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって、脳の神経細胞に十分な栄養や酸素が行き届かなくなることが原因です。 - 主な症状
できることとできないことの差が激しい「またら認知症」が特徴的です。
レビー小体型認知症(全体の4.3%)
- 特徴・原因
脳内に「レビー小体」と呼ばれる異常な物質が蓄積することで発生します。 - 主な症状
実際には存在しない人や虫などが見える「幻視」や、パーキンソン病に似た歩行困難などが現れます。
前頭側頭型認知症(全体の1.0%)
- 特徴・原因
脳の前頭葉や側頭葉で神経細胞が減少し、その部位が萎縮することで起こります。 - 主な症状
感情の抑制が利かなくなったり、社会のルールを守れなくなったりする行動異常が見られます。
※その他の認知症が全体の7.6%を占めています。
早期発見の鍵「軽度認知障害(MCI)」とは?
認知症の予防・対策において最も大切なのが、早期段階であるMCI(軽度認知障害)の時点で見つけ出し、適切な対策を開始することです。
MCI(軽度認知障害)の2大特徴
MCIは、正常な状態と認知症の中間に位置する状態で、主に以下の2つの特徴があるとされています。
- 認知機能の低下が見られる
全般的な認知機能は正常範囲内ですが、見当識障害や記憶力低下など一部の認知機能に低下がみられます。 - 日常生活は自立している
認知機能障害はあるものの日常生活に支障はなく、自立した生活を送ることができます。
MCI段階で対策を行う重要性
MCIと診断された場合、何も対策をとらなければ1年で約10%、5年で50%以上の人が認知症へ進行すると言われています。
ですが、MCIの段階で養生や適切な生活習慣の改善を行うことで、約30%の人は正常な状態に戻ることがデータ(国立長寿医療研究センター、2017年発表)で示されてもいます。
なので、MCIは「まだ間に合う」段階でもあり、適切なケアによって進行を遅らせたり回復させたりすることが期待できる、重要な時期と言えます。
糖尿病と認知症の深い関係
近年の研究や調査により、生活習慣病、特に糖尿病(高血糖状態)は認知症の発症リスクと密接に関連していることが明らかになっています。
慢性的な高血糖が認知症を引き起こすしくみ
糖尿病に伴う慢性的な高血糖状態は、以下のような複数のメカニズムを通じて認知症のリスクを高めます。
- アミロイドβの分解阻害
インスリン分解酵素は、インスリン処理に追われるとアルツハイマー型の原因物質である「アミロイドβ」の分解を後回しにしてしまい、結果として脳内にアミロイドβが蓄積しやすくなります。 - 脳内排出機能の低下
脳内のアミロイドβの重要な排出経路が機能しにくくなります。 - 動脈硬化の進行
血管が損傷・狭小化し、脳梗塞や脳出血を起こしやすくなることで「血管性認知症」の発症リスクが高まります。
久山町研究(福岡県)の調査結果
福岡県で行われた久山町研究の調査結果によると、糖尿病の人は正常な人に比べてアルツハイマー型認知症の発症リスクが約2倍にのぼることが示されているようです。
このことからも、有効な認知症対策として「血糖コントロール」が非常に重要であると言えます。
生活習慣の改善でリスクを下げる(WHOが推奨する対策)
アルツハイマー型の原因物質であるアミロイドβは、認知症を発症するまでの約20年前から蓄積し始めると言われています。
なので、発症するずっと前から日々の生活習慣を見直すことが予防策となります。
WHO(世界保健機関)のガイドラインでは、予防には特に以下の生活習慣の改善が強推奨されています。
- バランスのとれた食事
毎日の食事内容を見直し、適切な栄養バランスを意識する。 - 適度な運動習慣
身体活動を日常に取り入れ、生活習慣病予防と認知機能維持を図る。 - 禁煙
喫煙は認知機能低下および認知症のリスクを高めるので、禁煙に努める。 - 高血圧の管理
高血圧を放置すると認知症リスクが上がるので、適切に血圧をコントロールする。 - 糖尿病の管理
血糖値を適切にコントロールし、高血糖状態を防ぐ。 - 脂質異常症の管理
脂質代謝の管理を行い、血管の健康を維持する。
まとめ:少しでも違和感を覚えたら早期の受診を
認知症は特別な病気ではなく、誰にとっても身近な問題です。
症状が進んでからではなく、前段階であるMCI(軽度認知障害)の段階で異変に気づき、適切な予防やケアを開始することが健康な時間を長く保つポイントとなります。
「最近もの忘れが増えたかも」「少し様子がおかしい」と感じたら、放置せずに早めに医療機関を受診して、日頃の食事や運動などの生活習慣から対策を始めていきましょう。

