人生で一度も嘘をついたことがない、という人はまず存在しないと思います。
なぜなら、嘘をつくことは人間の生存戦略や社会生活の調整に深く組み込まれているからです。
私たちは、単に悪意からだけでなく、自分を守るため、あるいは他人を思いやるがゆえに嘘をつきくことがあります。
この記事では、心理学的に分類される人が嘘をつく4つの主要な目的を深掘りし、その動機や影響について解説していきたいと思います。
1. 嘘をつく4つの主要な目的
人が嘘をつく行動は、その動機によって大きく以下の4つのカテゴリーに分類されます。
それぞれの嘘が持つ心理的な役割を理解することが、人間関係や社会の仕組みを理解する鍵となります。
- 防御(自己防衛): 自分の身を守り、立場や評価を維持するため。
- 背伸び(自己顕示): 自分の価値を高め、承認を得るため。
- 欺瞞(ぎまん): 相手を騙し、自分の利益や目的を達成するため。
- 擁護(ようご): 他人を守り、人間関係を円滑にするため。
2. 目的別|嘘の心理的背景と具体例
目的1:防御(自己防衛)の嘘
この種の嘘は、人間が持つ最も本能的で原始的な嘘であり、「自分自身を守る」ことが最大の目的です。
失敗や過失が露呈することで被る不利益(罰則、非難、評価の低下など)を回避しようとする自己防衛システムが働いています。
- 動機となる感情: 恐怖、不安、恥ずかしさ、責任逃れ。
- 具体例
- 朝寝坊で遅刻したにもかかわらず、「電車が遅延した」「体調が悪かった」など、外部要因や体調を理由にする。
- 仕事でミスをした際に、自分の関与を否定したり、他人のせいにしたりする。
- 特徴
この嘘は、善悪の判断や道徳心よりも、反射的な回避行動として発現しやすいため、理性で抑え込むのが難しい場合があります。
目的2:背伸び(自己顕示)の嘘
この嘘は、「自分をより魅力的に、あるいはより優位に見せたい」という承認欲求や自己評価の維持を目的としています。
現実の自分と理想の自分とのギャップを埋めるために、自己を誇張したり、恥ずかしい事実を隠したりします。
- 動機となる感情: 劣等感、承認欲求、優越感の追求、見栄。
- 具体例
- SNS上で実際は質素な生活を送っているのに、高級な食事や派手な遊びをしているかのように装って投稿する。
- 過去の実績や学歴、年収などを過大に偽って話す。
- 特徴
自己肯定感が低い人ほど、他者からの評価を得るために、この種の嘘に頼りがちになる傾向があります。
目的3:欺瞞(ぎまん)の嘘
欺瞞の嘘は、「他人を騙し、そこから金銭や地位などの個人的な利益を不当に得る」ことを主目的とする、悪意と計画性の高い嘘です。
この目的は、道徳的・法律的に最も問題視されるもので、詐欺や犯罪行為に直結します。
- 動機となる感情: 貪欲、利己心、権力欲。
- 具体例
- オレオレ詐欺や投資詐欺など、明確に金銭を騙し取る犯罪行為。
- 契約時や取引時に、相手に不利益を与える事実を意図的に隠蔽する。
- 特徴
自分の利益のためであれば他者が傷つくことを厭わない、利己的な動機に強く基づいています。
目的4:擁護(ようご)の嘘(配慮の嘘)
この嘘は、上記3つとは異なり、「他人を傷つけない」「相手の利益や感情を守る」ことを目的としたポジティブな側面を持つ嘘です。
しばしば「優しい嘘」や「配慮の嘘」と呼ばれます。
- 動機となる感情: 共感、思いやり、愛情、人間関係の調和。
- 具体例
- 病気で辛そうな人に対し、本心を隠して「思ったよりずっと元気そうだよ」と伝え、希望や活力を与えようとする。
- 子どもの描いた絵を「上手だね」と褒め、自尊心を育もうとする。
- 特徴
この嘘は、正直であることよりも、人間的な思いやりや倫理的な配慮を優先すると判断されたときにつかれます。
必ずしも「悪いこと」とは言えません。
3. 嘘の目的を知る意義
私たちは社会的な動物として、嘘を完全になくすことはできません。
ですが「嘘は悪いもの」と一律に断じるのではなく、その裏にある「目的」を理解することが重要です。
誰かに嘘をつかれたとき、あるいは自分が嘘をついてしまったとき、それが上記のどの種類に該当するのかを分析することで、以下の洞察が得られます。
- 相手の心理の理解
相手が「防御」の嘘をついたなら、その裏に強い恐怖心や不安があるかもしれないと察することができます。 - 自分の性格の把握
自分が「背伸び」の嘘をつきがちなら、潜在的な自己肯定感の低さや、他者への依存心といった課題を知るきっかけになります。
嘘の目的を深く考えることは、人間関係の複雑さを乗りこなし、自分と他者の真の動機を理解する上で非常に役立ちます。

