「病気や体調不良の時以外は、消化の良い柔らかいものよりも、硬くて歯ごたえのある食べ物が健康に良い」という考え方が広まっています。
一般的に良いイメージのある「消化が良い柔らかい食べ物」が、日常食になると身体に悪影響を及ぼす理由を、「噛む力(咀嚼機能)」と「血糖値(GI値)」の観点から解説します。
柔らかい食事が招く「噛む力」の衰え
消化の良い、柔らかい食品ばかりを常食すると、咀嚼(そしゃく)に必要な顎や口周りの筋肉、そして飲み込む力(嚥下機能)が衰えてしまうリスクがあります。
顎の力と脳機能の維持
硬い食べ物をよく噛んで食べる習慣は、以下の点で健康維持に不可欠です。
- 顎の骨と歯の強化
よく噛むことで顎の骨が鍛えられ、歯を支える力が強くなります。 - 脳の活性化
噛む動作は、顎の筋肉を通じて脳に刺激を送り、血流を増加させます。
これは記憶力や集中力の向上、ひいては認知症の予防にも繋がると考えられています。 - 嚥下(飲み込む)機能の維持
顎や口周りの筋肉を使うことで、飲み込む力も自然と鍛えられます。
高齢期に「食べる力」が衰えるのを防ぐために重要です。
特に子どもの頃から柔らかい物ばかりを食べていると、顎が十分に発達せず、大人になってからも咀嚼力が弱くなりやすい傾向があります。
柔らかい食品は「高GI値」!血糖値の急上昇リスク
消化の良さと深く関係しているのが、GI値(グリセミックインデックス)です。
これは、食品が体内で糖に変わり、血糖値が上昇するスピードを数値化したものです。
| GI値が高い食品(柔らかい) | GI値が低い食品(硬い) |
| 血糖値が急激に上昇しやすい | 血糖値が緩やかに上昇しやすい |
| 糖尿病や肥満のリスクに繋がる | 健康的な体型維持に役立つ |
一般に、柔らかい食品ほど、消化・吸収が早く、GI値が高い傾向にあります。
そのため、日常的に柔らかい食品ばかりを食べていると、血糖値が急激に乱高下し、糖尿病や肥満のリスクを高める要因となりかねません。
硬い食べ物(GI値が低い)は、よく噛むことで消化が緩やかになり、血糖値の急上昇を抑えることに繋がります。
消化が良い「柔らかすぎる食品」の注意点
特定の栄養素を摂りたい、体調が悪い時など以外は、日常の食事で控えたい「消化が良すぎる」食品には、以下のようなものがあります。
摂取を控えたい食品例とその理由
| 食品カテゴリ | 理由 | 代替案/注意点 |
| レトルト・缶詰 | 長時間の加熱・加工により、食品の原型をとどめず柔らかく変化しているため。 | 非常食として活用し、常食は控えましょう。 |
| 長時間煮込んだ料理 | カレーやシチューなど、具材が柔らかくなり、噛む必要がほとんどなくなるため。 | 食材の歯ごたえが残る程度に煮込み時間を調整しましょう。 |
| ジュース(特に缶・精製) | 噛む過程がなく、糖分も高いため、血糖値が急上昇しやすい。 | 野菜や果物は、噛んで食べる生の状態(スムージーも少量に)で摂りましょう。 |
健康な身体を維持するためにOKな食品と調理法
顎の力、消化機能、血糖値の安定を考慮すると、「噛みごたえ」があり、シンプルに調理された食品が理想的です。
| 理想的な食品・調理法 | なぜ良いのか | 噛むための工夫 |
| 生もの | 野菜のサラダや魚の刺身、果物など、原型に近い状態で噛んで食べられる。 | 野菜は大きくカットし、皮は抗酸化物質が豊富なので、よく洗って皮ごと食べましょう。 |
| 乾物類 | 野菜、海産物などの乾物は、生の状態よりもさらに硬さがあり、自然と噛む回数が増える。 | 干ししいたけ、切り干し大根、海藻類などを積極的に取り入れる。 |
| シンプルな調理法 | 焼く、ゆでる、蒸すなど、短時間の加熱で食品の原型が崩れにくい調理法を選ぶ。 | 茹でた野菜は硬さを残し、魚や肉は焦げ付かない程度に調理しましょう。 |
まとめ|健康のためのキーワードは「よく噛む」
消化の良い柔らかい食品は、体調不良時には有用ですが、日常食としては以下のようなデメリットがあることを理解しておきましょう。
- 咀嚼機能の衰え
顎や飲み込む力が低下し、脳への刺激も減少することで、将来的な認知症リスクにも繋がります。 - 高GI値によるリスク
消化吸収が早いため血糖値が急上昇しやすく、糖尿病や肥満に繋がる可能性があります。
病気の回復期を除き、「硬さや歯ごたえのある食材」を「よく噛んで食べる」習慣を身につけることが、全身の健康と、生きる上で重要な「食べる力」の維持に不可欠です。
一口30回を目安に、日々の食事を意識すると良いかと思います。

