私たちは、自分の記憶や判断が常に正しいと考えがちですが、実際には人間の認識は先入観や思い込みによって簡単に歪められてしまいます。
この「思い込みが作る嘘」のメカニズムは、心理学における確証バイアスや記憶の再構成によって説明することができます。
「言った、言わない」の口論が起きるのは、お互いが「自分が正しい」と信じているからです。
その背後にある、人が無意識につく二重の嘘について解説します。
情報を記憶する際の嘘|確証バイアスとは?
私たちが何かを「正しい」と信じ込むとき、その信念を裏付ける情報ばかりを集めてしまい、反証する情報や反対意見を無視する傾向があります。
この認知の偏りを確証バイアス(Confirmation Bias)と呼びます。
確証バイアスが先入観を強化するメカニズム
確証バイアスは、以下のようなメカニズムで私たちの思い込みをさらに強固にします。
- 信念の形成
ある対象に対して「こうだ」という先入観(例:あの人は嫌な人だ)を持つ。 - 情報収集の偏り
その信念に合致する情報(例:あの人の冷たい態度)ばかりを無意識のうちに探したり、重要視したりする。 - 信念の強化
集めた都合の良い事実によって、元の先入観が「やっぱり自分の見方は正しかった」と強化されてしまう。
例:
第一印象で「あの人は嫌な人だ」と思ってしまったら、その人の優しさや良い面には目がいかず、嫌な態度や欠点ばかりに意識が集中してしまいます。
これにより、根拠のない先入観が強固な事実であるかのように錯覚してしまいます。
第一印象が重要なのはこの為です。
確証バイアスは、客観的な判断を妨げ、視野を狭くする認知バイアスの代表例です。
記憶を思い出す際の嘘|曖昧な記憶の再構成
人の記憶は、録画された映像のように正確無比に保存されているわけではありません。
記憶は非常に曖昧で、思い出すたびにその時の状況や感情、外部からの情報によって無意識に作り変えられてしまうことがあります。
誘導によって生まれる「偽の記憶」
記憶を思い出す際にも、以下のような誘導によって「嘘」が生じる可能性があります。
- 質問の誘導
何かについて質問をされたとき、質問に含まれる特定の言葉やニュアンスが、事実とは異なるイメージを無意識のうちに引き起こし、そのイメージに合わせて過去の記憶を再構成してしまうことがあります。- (例:「事故の際、車は激しく衝突しましたか?」という質問で、「激しく」という言葉が、実際よりも大げさな衝突の記憶を作り出す)
- 自己都合の美化
自分の行動を正当化するために、過去の記憶を自分に都合の良いように無意識に美化・修正してしまうこともあります。
記憶の曖昧さが引き起こす問題
私たちが「確かな事実だ」と信じ込んでいる記憶でも、実際には思い込みや誘導によって作られた「嘘」である可能性があります。
この記憶の曖昧さは、口論や対立の原因になるだけでなく、証言の信頼性にも関わる大きな問題です。
まとめ|思い込みの罠から逃れるために
確証バイアスと記憶の嘘は、私たちの判断や人間関係に大きな影響を与えます。
- 確証バイアス
「自分の見たいものだけを見る」ことで、先入観を真実だと信じ込ませる。 - 記憶の再構成
外部からの誘導や自己防衛のために、過去の記憶を無意識に書き換えてしまう。
大切な情報や出来事を思い出す際は、「自分の思い込みによって誘導されていないか」「集めている情報に偏りはないか」と立ち止まって客観的に自問することが、思い込みの罠から逃れるための第一歩となります。

