人はなぜ他人と比べるのか?自分の位置を確認する「社会的比較」の心理

「他人と自分を比べるな」「自分らしくあれ」といった言葉はよく聞かれますが、実際には人は他人と自分を比べずにはいられない生き物です。
私たちは対人比較欲求を持っており、常に他人と比較することで自分の立ち位置を確認し、安心感を得ようとしています。

「社会的比較」が与える安心感と立ち位置の確認

自己評価には、特定の基準に照らして判断する絶対評価と、他人と比べて判断する相対評価があります。
自分と他人を比べる行為は、この相対評価のうち、特に社会的比較と呼ばれています。

人が社会的比較を行うのは、周りの人と同じレベルにあると安心できるからです。
集団の中で自分が浮いていたり、極端に目立つ状況にあると、精神的に落ち着かず不安に駆られてしまいます。
他人と比較して「自分も周りと同じだ」という社会的真実性が得られると、安心して過ごすことができます。
この安心感を常に得るために、人は絶えず社会的比較を行っているのです。


誰と比べるか?「類似志向」と「自信の度合い」

社会的比較を行う際、人は誰とでも比較するわけではありません。
一般的に、人は自分とほぼ同じレベルの相手と比べようとします。
これを類似志向の社会的比較と呼びます。自分よりも能力に差がありすぎる上司や先輩と比べても比較にならないからです。

その為、最も好ましい比較対象は同期の人たちになります。
同じレベルの同期と比較することで、能力に極端な差がつくことは少なく、それによって自尊心が傷つくリスクも最小限に抑えられます。
同期の存在は、自分が安心感を得るための最適な比較対象となるのです。

しかし、比較対象は個人の自信の度合い向上心によって変わります。

  • 上方比較
    自信がある時や向上心がある時は、自分よりも上の相手と比較します。
    これは目標設定やモチベーション維持に役立ちます。
  • 下方比較
    反対に自信がない時は、自尊心を守り、優越感や安心感を得るために自分よりも下の相手と比較することが多くなります。

実際に心理学者のモースとガーゲンが行った学生の自己評価に関する実験では、被験者が自分より「デキそうな人」と比較すると自己評価が下がり、「デキなさそうな人」と比較すると自己評価が上がることが示されています。
これは、自信が他人との比較から生まれることを証明するものです。


「不幸話」を好む心理も社会的比較が関係

無性に泣きたい気分の時に、あえて悲しい映画を観て大泣きしたらスッキリした経験はないでしょうか。
これはカタルシス作用による精神的なバランス調整ですが、他人やドラマの不幸話を見聞きすることで「自分は幸せだ」「自分はまだマシだ」と感じる人も多いです。

これもまた、下方比較によって自分の立ち位置を確認し、精神的なバランス(安心感)をとっている心理作用の一つです。

人は「人と比べるな」「自分らしくいろ」と言われながらも、実際には常に他人と比較し、自分の立ち位置を確認して安心しようとしているのです。


📝 まとめ

人は社会的比較という相対評価を通じて、自分の立ち位置(社会的真実性)を確認し、安心感を得ようとします
比較対象は、自分とほぼ同じレベルの相手を選ぶ類似志向が最も多いですが、自信があるときは上方比較、自信がないときは下方比較に変化します
他人の不幸話に安心感を得る心理も、自分より下の状態と比較する下方比較の一種です。

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