「人はなぜ簡単に騙されてしまうのか?」その大きな原因は、私たちが「思考を節約する」ようにできている、脳の効率的な働きの裏側にあります。
現代社会の忙しい生活の中で、私たちは無数の情報や判断に晒されており、その都度深く考えることはできません。
この「短絡的な思考」が、詐欺や誤解の隙を生み出しています。
「速い思考」と「遅い思考」騙されやすさの心理メカニズム
ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンは、人間の思考には二つのシステムがあると提唱しました。
| システム | 特徴 | 騙されやすさとの関連 |
| システム1(速い思考) | 直感的、自動的、感情的。エネルギーを使わず迅速に判断する。 | 人を騙す側が利用する思考。 見た目、印象、感情に流されやすい。 |
| システム2(遅い思考) | 論理的、熟慮的、分析的。時間と労力を使い深く考察する。 | 騙されないために必要な思考。 情報を検証し、判断を保留できる。 |
私たちが「思考を節約する」とは、ほとんどの場面でシステム1に依存している状態を指します。
システム1は効率的ですが、情報の一部や表面的な特徴だけで判断するため、認知バイアスという判断の偏りが生じやすく、結果として騙されやすくなるのです。
人を騙す側が突く「思考の節約」の具体例
システム1に依存し、深く考えないことで生じる騙されやすさには、以下のようなパターンがあります。
① 見た目や話し方で判断してしまう(ハロー効果)
- 「専門性や権威、肩書」への依存
資格や高価なスーツ、流暢な話し方など、表面的な情報だけで相手の能力や信頼性を判断してしまいます。
マイペースな人が、実績や権威に簡単に騙されやすいのはこのためです。 - ハッタリや演技に騙される
誇張された自信やパフォーマンスを、実力と誤認してしまい、本質を見抜けなくなってしまいます。
② 「今まで大丈夫だったから次も大丈夫」と考える(現状維持バイアス)
過去に危険がなかった経験から、「次は大丈夫だろう」と安易な予測をしてしまいます。
新しい状況や変化を深く分析することを避け、慣れた判断パターンに頼ります。
③ 相性や人間性を過度に重視する(感情バイアス)
「気が合う」だけで信頼する
他人に合わせがちな人が、仕事の能力よりも「相性」「性格」といった感情的な要素を優先し、人間性に騙されてしまうケースです。
相手の客観的な能力や事実検証を怠る。
騙されないために:システム2を意識的に起動する方法
人が簡単に騙されるのは、困難な状況や時間がない時に、深く考えずに安易な結論を出そうとするからです。
騙されないためには、意識的に「遅い思考(システム2)」を起動する習慣が必要です。
- 立ち止まる習慣をつける
重要な判断を迫られたときこそ、「なぜそう思うのか?」「本当に正しいのか?」と自分に問いかけ、即答を避けて一度立ち止まる。 - 情報を検証する
相手の言葉や肩書を鵜呑みにせず、第三者によるレビューや公式情報など、別の情報源を使って事実を確認する。 - 感情と事実を分ける
「好きだから」「信用したいから」といった感情と、提示されている情報の論理性・客観性を分けて評価する訓練をする。
思考を節約したいという人間の本能を理解し、その落とし穴を知ることで、私たちは詐欺や誤解から身を守り、より賢明な判断を下すことができるようになります。

