【研究報告】「ストレッチ」が後期高齢者の血管と脳を救う!自宅でできる健康寿命延伸法

研究データ 健康

後期高齢者を対象に行われた75歳以上の後期高齢者、またはそのご家族の皆様へ。

激しい運動は身体への負担が大きいですが、健康を維持し、いつまでも自分らしく生活するためには、継続的な運動が欠かせません。
そこで、おすすめしたいのがストレッチです。

後期高齢者を対象とした調査で、毎日15分の全身スタティック・ストレッチングを続けるだけで、動脈硬化の予防認知機能の向上という、健康長寿の二大要素に効果があることが確認されています。

この研究は、高齢者にとって最も手軽で安全な運動の一つであるストレッチングが、動脈硬化予防と認知症予防に貢献する可能性を示唆しています。

参照元
新野弘美 (2025). 後期高齢者のスタティック・ストレッチング介入. 大阪体育学研究, 63(0), 11-20. https://www.jstage.jst.go.jp/article/osakataiikugakkai/63/0/63_11/_article/-char/ja/

この研究は、後期高齢者を対象に、スタティック・ストレッチングのみを継続的に実施することが、認知機能、柔軟性、血管内皮機能、および動脈硬化度に及ぼす影響を検討することを目的としています。

1. 背景・先行研究

  • 老化は生活様式などの環境的要因の影響を大きく受ける。
  • 加齢に伴い血管は構造的・機能的に変化し、動脈コンプライアンスの低下(血管の硬化)をきたし、動脈硬化を基盤とする疾患が増加する。
  • 動脈硬化度と認知機能障害の関連が示唆されているが、高齢者が継続しやすい運動(有酸素運動やレジスタンストレーニングは困難な場合がある)としてスタティック・ストレッチングに注目。
  • 先行研究では、柔軟性の低下が動脈硬化度の増大と関連する可能性が示されている。
  • 研究者らは中年女性においてスタティック・ストレッチングによる血管内皮機能と動脈スティッフネスの改善効果を報告しているが、高齢者におけるストレッチング単独の介入研究は少ない。

2. 研究方法

  • 対象者:
    75歳以上の後期高齢者18名(介入群9名、コントロール併用群9名)。
  • 介入内容
    • 介入群: 毎日15分以上の全身15部位のスタティック・ストレッチングを6ヶ月間実施。
    • コントロール併用群: 最初の3ヶ月間は未介入、その後3ヶ月間は介入群と同様に毎日ストレッチングを実施。
  • 測定項目
    • 柔軟性(長座体前屈)
    • 認知機能(ファイブ・コグテスト)
    • 血管内皮機能(RH-PAT index)
    • 動脈スティフネス(baPWV:上腕-足首脈波伝播速度)
  • 実施頻度: 両群とも介入期間中のストレッチング実施率は、週5回以上に相当した。

なぜストレッチが体の中から効くのか?

老化は、遺伝的要因よりも日々の生活習慣(環境的要因)に大きく影響されます。
特に加齢とともに進行する動脈硬化は、高血圧や心血管疾患、そして血管性認知症のリスクを高めます。

研究チームは、毎日15分以上の全身ストレッチングを継続的に実施したグループと、そうでないグループを比較しました。
その結果、ストレッチングは単なる柔軟性の向上に留まらない、体内の根本的な改善をもたらすことが分かりました。

1. 血管内皮機能と動脈硬化度の劇的な改善

ストレッチングを3〜6ヶ月継続したグループでは、以下の主要な指標が有意に改善しました。

  • 血管内皮機能(RH-PAT index)の改善:
    1. 血管の最も内側にある「血管内皮」の働きが良くなりました。
      これは、血管を広げたり、血液をサラサラに保ったりする機能が向上したことを意味します。
  • 動脈スティフネス(baPWV)の改善:
    1. 動脈の硬さを示す指標が低下しました。
      血管が硬いほど病気のリスクが高まりますが、ストレッチングによって血管がしなやかになり、動脈硬化の進行を抑える効果が示されました。

【メカニズムの推測】

ストレッチングで筋肉が伸ばされる際、筋肉と並走する血管にも物理的な刺激(メカニカルストレス)が加わります。
この刺激が血管内皮細胞を活性化させ、血管を健康に保つ物質(NOなど)の放出を促したと考えられています。

2. 認知機能の複数の要素でスコアが向上

認知機能テスト(ファイブ・コグテスト)の結果、記憶力、運動課題、照合課題など、複数の項目で有意なスコアの改善が認められました。

この効果は、ストレッチングによる血流改善が脳の機能にも良い影響を与えたことに加え、日々のストレッチングの記録をつける「セルフモニタリング(自己観察)」が、脳を活性化させた可能性も示唆されています。

3. 柔軟性の改善と習慣化の有効性

もちろん、長座体前屈などで測られる柔軟性も大きく向上しました。
この効果は、転倒予防や歩行能力の維持に直結します。

さらに、この研究は、ストレッチングが週5回以上という高い頻度で継続しやすい低強度運動であることを示しました。

注意点:効果は「貯金」できない!

重要なのは、これらの改善効果は、運動をやめてしまうと半年後には元の状態に戻ってしまうことです。

この結果は、スタティック・ストレッチングがもたらす健康効果は可逆的であり、「継続こそ力なり」を証明しています。
健康な体と脳を維持するためには、毎日または高頻度での継続的な実施が不可欠と言えます。

【今日から始める】ストレッチング習慣

この研究は、高齢者や体力に不安がある方でも、安全に、そして確実に健康増進が図れる方法として、スタティック・ストレッチングを推奨しています。

  • 頻度: 週に5回以上(できる限り毎日)
  • 時間: 1日15分以上
  • 強度: 「気持ちいいけれど、少しきつい」と感じる程度で20〜30秒間伸ばす
  • 部位: 全身の主要な筋肉を網羅する15部位

ストレッチは、手軽にどこでも行うことができますので、日々の生活に取り入れてみましせんか?

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