「高齢者の健康維持には筋力トレーニングが重要」とよく聞きますが、その体力、正しく測れていますか?
握力は、全身の筋力を測る指標として知られ、「健康のバロメーター」とも言われていますが、
握力だけでは高齢者の体力を測りきれないこともわかってきています。
西九州大学などの研究グループが発表した「地域在住高齢者の握力は体力の代表値なのか?」を元に、高齢者の本当の体力評価について解説します。
握力テストだけでは不十分?最新研究が示す体力評価の真実
この研究は、214名の地域在住高齢者(65歳以上)を対象に行われました。
握力と、歩行速度、バランス能力、体の柔軟性といったさまざまな身体機能との関係性を分析した結果、以下のような性別の違いが明らかになったようです。
男性の場合
握力は、体幹の筋力や歩行能力の一部(最大歩行速度)とは関連がありましたが、握力が低いからといって、必ずしも他の身体機能も低いとは限りませんでした。
男性の体力は、握力だけでは包括的に評価できない可能性が示唆されています。
女性の場合
握力は、体幹筋力、バランス能力(片足立ち)、下肢筋力(椅子からの立ち上がり)、そして歩行能力(通常・最大歩行速度)など、多くの身体機能と関連があることがわかりました。
特に、握力が基準値より低い女性は、バランス能力や歩行速度も有意に低いという結果が出ています。
なぜ男女で違いが出るの?
この研究では、なぜ男女でこのような違いが出たのかまでは特定されていません。
しかし、一般的に男性と女性では筋肉のつき方や筋力低下のパターンが異なります。
このことが、握力と全身の体力との関連性の違いに影響している可能性があると考えられます。
男性の握力は、上半身の筋力や瞬発的な力とより強く関係しているのかもしれません。
一方で、女性は、全身の筋力がより均等に握力に反映される傾向があるのかもしれません。
結論|健康寿命をのばすための体力評価とは
この研究から得られる重要なメッセージは、「体力評価は性別によって、そして多様な要素を考慮して行うべき」ということです。
健康寿命を延ばす為には、握力だけを測るのではなく、以下の項目もチェックすることをおすすめします。
- 歩行速度: いつものペースでどのくらいの速さで歩けるか
- バランス能力: 片足でどのくらいの時間立てるか
- 下肢筋力: 椅子からスムーズに立ち上がれるか
- 柔軟性: 前屈などの動作で体の柔らかさを確認
これらの複数の指標を総合的に見ていくことで、より正確に自分の体の状態を把握し、必要な対策をとることができます。
握力はあくまで体力の一つの側面です。
定期的にこれらの項目をチェックして、自分に合った運動やトレーニングを続けることが、いつまでも活動的に過ごすための秘訣と言えます。
参照元
旭 将哉, 吉次 慧悟, 八谷 瑞紀, 釜﨑 大志郎, 大川 裕行, 藤原 和彦, 久保 温子, 坂本 飛鳥, 溝上 泰弘, 鎌田 實, & 大田尾 浩. (2024). 地域在住高齢者の握力は体力の代表値なのか?. 理学療法さが, 10(1), 79-84. DOI: 10.34588/saga-pt.10.1_79