「腕を上げると肩に激痛が走る…」「夜中に肩が痛くて眠れない…」
もし、このような肩の不調に悩んでいるなら、それは肩インピンジメントかもしれません。
肩インピンジメントは、肩の痛みの中でも非常に多く見られる疾患であり、スポーツ選手からデスクワークの方まで、幅広い世代に起こりえます。
放置しておくと、痛みが慢性化したり、日常生活に支障をきたす可能性もあるため、正しい知識を身につけ、早めの対処が大切です。
肩インピンジメントのメカニズムと主な原因
肩の関節は、肩甲骨の一部である肩峰(けんぽう)と、上腕骨の丸い部分である上腕骨頭(じょうわんこっとう)で構成されています。
この2つの骨の間には、肩を動かすために重要な役割を果たす腱の集まり、回旋腱板(かいせんけんばん)や、クッションの役割を果たす滑液包(かつえきほう)が存在します。
肩インピンジメントは、腕を上げた際にこの狭い空間で回旋腱板や滑液包が肩峰に挟み込まれ、摩擦や圧迫が繰り返されることで炎症が起こり、痛みが生じる状態を指します。
このインピンジメント(挟み込み)を引き起こす主な原因は、以下のようなものが挙げられます。
- 肩の使いすぎ
野球の投球動作、テニスのサーブ、水泳、バレーボールのアタックなど、腕を頭より上に挙げる動作を繰り返すスポーツは、肩に大きな負担をかけます。 - 姿勢の悪さ
猫背や前かがみの姿勢は、肩甲骨が前にずれることで肩峰と上腕骨の間の空間がさらに狭くなり、インピンジメントが起こりやすくなります。 - 筋力のアンバランス
肩関節を安定させる回旋腱板(インナーマッスル)が弱かったり、逆にアウターマッスルばかりが発達していると、肩の動きが不安定になり、腱が挟まれやすくなります。 - 骨の形状
生まれつき肩峰の形が尖っていたり、下方に向かって突き出しているような骨格的な特徴があると、インピンジメントが起こりやすい傾向にあります。 - 加齢による変化
加齢とともに腱や滑液包が硬くなったり、炎症を起こしやすくなることも一因です。
見過ごしてはいけない!肩インピンジメントの典型的な症状
肩インピンジメントの症状は、初期段階では軽微な違和感から始まり、徐々に悪化していくことが多いです。
以下のような症状に心当たりがないかチェックしてみましょう。
- 痛み
腕を横から真上に上げていく途中(60度から120度くらいの角度)で、肩の前方や側方に鋭い痛みを感じます。
この動作を「有痛弧(ゆうつうこ)」と呼びます。 - 夜間の痛み
寝ているときに、痛む側の肩を下にして寝るとズキズキとした痛みで目が覚めることがあります。 - 可動域の制限
痛みがあるため、腕を上げたり、後ろに回したりする動作が難しくなり、肩の動かせる範囲が狭まります。 - 肩の違和感や音
肩を動かすときに、ゴリゴリ、シャリシャリといった音が聞こえたり、引っかかるような感覚を覚えることがあります。
これらの症状を放置すると、炎症がさらにひどくなり、最終的には回旋腱板が部分的に損傷したり、断裂に至ることもあります。
自宅でできる肩インピンジメントのセルフケアと予防策
痛みが軽い段階や、再発を予防するためには、日頃からのセルフケアが非常に重要です。
1. 痛みを和らげるための応急処置
- 安静
まずは、痛みを引き起こす動作を避け、肩を十分に休ませましょう。
無理に動かすと、かえって炎症を悪化させてしまいます。 - アイシング
炎症が強い場合や、運動後に痛みを感じた場合は、氷のうや保冷剤をタオルに包んで患部を冷やします。
15分程度を目安に行い、感覚がなくなるまで冷やしすぎないように注意しましょう。
2. 肩の柔軟性と筋力を高めるエクササイズ
痛みが治まってきたら、無理のない範囲で以下のエクササイズを取り入れてみましょう。
肩関節周囲の筋肉をバランスよく鍛え、柔軟性を高めることで、インピンジメントの予防につながります。
- ストレッチ
- 広背筋ストレッチ
両手を組んで上に伸ばし、身体を左右にゆっくりと倒します。 - 大胸筋ストレッチ
ドアの枠に両手をつき、身体を前に倒して胸の筋肉を伸ばします。 - 胸~肩周辺のストレッチ
背中側で両手を組み、ゆっくりと肩甲骨を寄せるように胸を張ります。
- 広背筋ストレッチ
- 筋力トレーニング
- チューブを使ったインナーマッスルトレーニング
軽いゴムチューブを使い、肘を90度に曲げたまま、チューブを外側にゆっくりと引く「外旋」の動きを行います。
- チューブを使ったインナーマッスルトレーニング
💡注意点: エクササイズ中に痛みを感じた場合は、すぐに中止してください。無理は禁物です。
専門家による治療法と相談のタイミング
セルフケアでも改善が見られない場合や、痛みが強い場合は、整形外科を受診するようにしましょう。
専門家による正確な診断と適切な治療が必要です。
病院での主な治療法
- 保存療法
- 薬物療法
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服薬や湿布、塗り薬で痛みや炎症を抑えます。 - 理学療法
理学療法士の指導のもと、個々の症状に合わせたストレッチや筋力トレーニング、姿勢改善のためのリハビリを行います。 - 注射
痛みが強く、日常生活に支障がある場合は、患部にステロイド注射を行うことで、炎症を抑えることができます。
- 薬物療法
- 手術療法
- 保存療法を6か月以上続けても改善が見られない場合や、回旋腱板の損傷が大きい場合は、手術が検討されます。
鏡視下肩峰下除圧術という、内視鏡を使って肩峰の骨の一部を削り、腱が挟まれる空間を広げる手術が一般的です。
- 保存療法を6か月以上続けても改善が見られない場合や、回旋腱板の損傷が大きい場合は、手術が検討されます。
肩の痛みは、単なる筋肉痛だと思って放置しがちですが、実は肩インピンジメントのような深刻な疾患が隠れていることがあります。
早めに整形外科を受診し、専門医に相談することで、症状の悪化を防ぎ、スムーズに改善を目指すことができます。
正しい知識を持って対処すれば、肩の痛みから解放され、快適な日常生活を取り戻すことが可能です。