アルコールが肝硬変やがん、アルコール依存症などの長期的な健康リスクを高めることは広く知られていますが、運動やスポーツのパフォーマンスに与える影響については、特に日頃から運動に取り組む方にとって重要です。
米国スポーツ医学会(ACSM)は、「アルコール摂取は運動時の代謝、生理的反応に対するプラスの効果はほとんど、あるいは、まったくない」という立場をとっています。
この見解に基づき、アルコールがスポーツパフォーマンスに与えるマイナスの影響と、一部で報告されているわずかな影響について解説します。
スポーツパフォーマンスの主な「低下」要因
アルコール摂取は、アスリートのパフォーマンスを多角的に阻害します。
1. 反応時間・運動能力の低下
アルコールは、中枢神経系に作用し、以下のような能力を鈍らせます。
- 反応時間の遅延
- バランス能力の低下
- 脳の情報処理能力の低下
- 運動スキル(巧緻性)の低下
これらは、コンマ数秒を争う競技や、高度な技術・判断力が要求されるスポーツにおいて、決定的なマイナスとなります。
2. 回復と筋力維持の阻害
運動後のタンパク質合成は、筋肉の修復と成長に不可欠ですが、過度なアルコール摂取はこれを抑制し、トレーニングからの回復能力を低下させる恐れがあります。
- タンパク質合成の抑制: 筋肉修復に必要なプロセスを妨げます。
- ホルモンへの影響: 筋肉の成長に関わるホルモンバランスを乱す可能性があります。
- 筋力低下: 慢性的な大量飲酒は、アルコール筋症(ミオパチー)を引き起こし、筋力を著しく弱める原因となります。
3. 体温調節機能と脱水のリスク
特に運動時やその前後のアルコール摂取は、体調管理を難しくします。
- 体温調節能力の低下
気温が低い環境での長時間の運動において、体温を適切に維持する能力が低下する恐れがあります。 - 脱水の促進
アルコールには利尿作用があるため、気温が高い環境での運動時には、脱水症状を引き起こしやすくなります。
4. 翌日以降への影響
「飲み過ぎ」は、アルコールが代謝されるまでに時間を要するため、翌日以降のパフォーマンスにも悪影響を残します。
特に運動を終えた後に大量に飲酒した場合、その14時間後までパフォーマンスに悪影響が残る可能性があるとされています。
アルコールの「わずかな」影響(留意点あり)
一方で、アルコールの摂取に関する研究の中には、以下のような報告もありますが、これらがパフォーマンス向上に繋がるかについては否定的な見解が一般的です。
- 一時的な遊離テストステロン(男性ホルモン)の増加
アルコール摂取後、一時的にテストステロン量が増加することがありますが、これは筋肉を成長させる刺激には繋がらないとされています。 - グリコーゲンの取り込みの可能性
運動後の炭水化物・タンパク質摂取時に少量のアルコールを摂ることで、グリコーゲン(エネルギー源)の再貯蔵が進む可能性があるという報告が一部にあります。
ですが、これはアルコールがパフォーマンス向上に役立つことを意味するものではありません。
まとめ|アルコールと運動の付き合い方
総合的に見ると、アルコールは運動パフォーマンスに対して基本的に悪影響を及ぼすという結論になります。
以前は「少量であればコレステロール値の減少や心臓疾患のリスク低下に繋がる」といった説もありましたが、現在では少量のアルコールでも身体に良くないという見解が主流になっています。
アスリートや真剣にトレーニングに取り組む方にとっては、アルコールは一切飲まない方が身体にとっては最善と言えます。
もし飲酒する場合でも、パフォーマンスへの影響を最小限に抑え、健康を維持するためには、以下を目安に「節度ある飲酒」と「休肝日」を設けることが重要です。
- 1日の目安量
一概には言えませんがビールなら中瓶1本、日本酒なら1合、缶チューハイなら1.5缶程度。 - 休肝日
週に1~2日設け、連続ではなく間隔を空けて設けることが推奨されます。
健康とパフォーマンスの最大化を目指すなら、アルコールの摂取量と頻度に注意し、上手に付き合っていくことが求められます。